トラウマとは何か、まずはPTSDの診断基準から考えていきます。
PTSDとは、Posttraumatic Stress Disorderの略で、心的外傷後ストレス障害のことです。症状名については“障害”とは言わずに“症”とつけることも多くなっているようで、心的外傷後ストレス症ともいわれています。 私も障害より症と呼ぶ方がしっくりくるところがあり、例えば自閉スペクトラム症、注意欠如多動症というように呼ぶようにしています。
PTSDに話を戻しますと、診断基準として米国精神医学会(APA)より刊行されている「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」では、基準A(外傷的出来事)「実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への暴露」と定義されています。
ただし、この基準Aにあてはまらなくても、本人にとって主観的な苦痛があればどのような 出来事でもトラウマになりうるともいわれています(金,2001)。
基準Aに合致するトラウマを狭義のトラウマとし、基準Aには当てはまらないトラウマを広義のトラウマとして考えてみます。
トラウマは狭義でも広義でも、その出来事が、その人にとってどのように体験されたか、そしてどのような影響があったかにより生じると考えられています。 出来事(Event)、体験(Experience)、影響(Effect)の英語の頭文字をとり“トラウマの3E”といいます。
出来事(Event)となるトラウマやストレスは、一回きりの場合もあるし繰り返しの場合もあります。災害、被害、ネグレクト、度重なる叱責や失敗などさまざまです。
出来事がどのように体験(Experience)されるかは個人の文化的信念、社会的サポート、発達段階などいろいろな要因があります。例えば日本では恥の文化があり、恥ずかしいと感じる体験がトラウマとなることもあります。辛い出来事があったのに自分を助けてくれる人や共感してくれる人がいなかった場合や、まだ幼くて対処の仕方がわからなかった時の出来事なども、トラウマ体験となる場合があります。
長期にわたる不利な影響(Effect)はトラウマの重要な要素です。これまで耐えられたストレスに対処できなくなることや、人を信じられなくなり人間関係が維持できなくなること、認知や感情のコントロールがうまくできなくなることなどさまざまな影響がでます。 影響する期間や時期もいろいろで、身体的、精神的、感情的に衰弱することが心配されます。
トラウマには狭義のトラウマと広義のトラウマがあります。狭義のトラウマは診断基準がありますが、基準に当てはまらない出来事だと、自分自身も周囲の人もそれがトラウマだと気が付かない場合もあります。他の人には大丈夫な出来事でもその人にとっては辛いトラウマになっていることもあります。
診断基準に当てはまらなくても、その出来事がどのように体験されたのか、どのような影響がでているのかなど“トラウマの3E”を意識してみると、その人の感じているトラウマがいかなるものかがわかってきます。
【引用文献】
金 吉晴 2001 心的トラウマの理解とケア第2版 じほう.
(原著)Substance Abuse and Mental Health Services Administration. SAMHSA’s Concept of Trauma and Guidance for a Trauma-Informed Approach. HHS Publication No. (SMA) 14-4884. Rockville, MD: Substance Abuse and Mental Health Services Administration, 2014. (日本語版) 「SAMHSA のトラウマ概念とトラウマインフォームドアプローチのための手引き」 大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター・兵庫県こころのケアセンター訳、 2018.3 http://nmsc.osaka-kyoiku.ac.jp/ http://www.j-hits.org/ 監訳 兵庫県こころのケアセンター 亀岡智美 大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター 瀧野揚三 翻訳 徳島大学保健管理・総合相談センター 中村有吾 大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター 岩切昌宏、木村有里 大阪教育大学教育学部教育協働学科 石橋正浩、下村陽一 大阪大学大学院人間科学研究科 野坂祐子 発行所 Office of Policy, Planning and Innovation, Substance Abuse and Mental Health Services Administration, 1 Choke Cherry Road, Rockville, MD 20857. HHS
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