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執筆者の写真裕子 小野寺

ADHDと処理速度

更新日:9月29日




以前ジョブコーチをしていた時に、ADHDの方が働く職場の方によく言われたのが、「説明はちゃんとわかっているはずなのに、実際作業をさせると思ったほどできない」というものです。

できるはずなのにやらない、さぼっている、やる気がない…など、評価があまり良くありません。

本人は、「なんか焦ってしまいうまくいかない」と、さぼっているわけではない様子です。


なぜこのようなことになるのか、ひとつにADHDの認知の特徴があると考えられます。

ADHDの認知の特徴として、処理速度が低いことがいわれています。


大人の人の知能検査でよく使われるのがウエクスラー式知能検査、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)です。子供用にはWISC(Wechsler Intelligence Scale for Children)があります。

WAISでは、全般的なIQ(FSIQ)、言語理解指標(VCI)、知覚推理指標(PRI)、ワーキングメモリー指標(WMI)、処理速度指標(PSI)の5つの合成得点が算出されます。

このように全般的なIQだけではなく4つの特定の認知に関しても測定をするので、何が得意で何が苦手かがわかってきます。また、IQを一般的な指標と比較するだけではなく、自分自身の中の認知能力の差を知ることもできます。

ADHDではこの知能検査のなかの処理速度指標(PSI)が最も低くなることが示されています。処理速度は手際のよい作業や筆記スキル、意欲、プランニングなどに関与しているといわれています。

言語理解や知覚推理など他の認知能力が高いと、さらに処理速度との差が大きくなります。


そうすると実際の職場や学校で困ることが起こってきます。

「話しているとちゃんとできそうなのに、実際作業をさせると思ったほどできない」というものです。

言語理解などの能力は高いので指示を理解しやりとりもできているのに、手際よく作業をすることが苦手なのです。

周囲の人からすると、言語理解の高さのレベルで判断しているので、作業が遅いのは怠けているから、やる気がないからだと見えてしまうのです。

ADHD当人も自分の頭の中では理解ができているのに、思ったよりできないことに焦りを感じ、どうして自分は出来ないんだろうと自分を責めたり、自信を失ったりします。

子どもの頃からそのようなことが続いていると自分に対する否定的な認知が染みついてしまいます。

「自分はダメな人間だ」「恥ずかしい人間だ」「きっと失敗する」などです。


正しくは「自分のなかの他の能力と比較して処理速度が遅い」だけなのです。

自分の能力を客観視することで得意不得意を把握し、苦手な部分は工夫で補い、できるところはもっと伸ばすことができます。

得意な面、苦手な面を周囲の人に伝えることで、特徴が理解され対応も変わってくることがあります。


自分の能力を知る必要のある場合、WAISなどの知能検査は病院や発達障害支援センターなどの支援機関、発達検査などをおこなっている民間のカウンセリングルームなどで受けることができます。

病院や支援機関などは順番待ちのところも多いようです。民間のカウンセリングルームなどではそれぞれ検査料が設定してあり基本的には全額自己負担となります。


【参考文献】

藤田和弘,前川久男,大六一志,山中克夫「日本版WAIS-Ⅲの解釈事例と臨床研究」

日本文化科学社,2011

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