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- 自責と子どもの人権
子どもの頃のトラウマ体験や愛着の問題を抱えている人には、「自分が悪い」「自分には価値がない」と考えてしまう人がいます。 このように自分自身に対し否定的な信念をもってしまうのもトラウマの症状のひとつで、「否定的な自己概念」と言われています。 子どもの頃に起こった出来事により「自分が悪い」との考えを学習してしまうのですが、本当に自分が悪かったのでしょうか。 「殴られたのは自分が悪い子だから」「大切にされないのは自分に価値がないから」本当にそうでしょうか。 人間の子どもは生まれてすぐに自立はできません。子どものうちは誰かに守ってもらう必要があります。成長する過程で保護や配慮が必要であり、それらは子どもの権利として定められています。国際連合総会で「子どもの権利条約」が成立しており、日本でも1994年にこの条約に入りました。権利条約の54条の条文のなかからいくつか紹介します。 第12条「意見を表す権利」子供には自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利をもっています。その意見は十分考慮されなければなりません。 第19条「あらゆる暴力からの保護」どんなかたちであれ子どもが暴力を振るわれたり不当な扱いなどを受けたりすることがないように国は子どもたちを守らなければなりません。 第27条「生活水準の確保」子どもは心やからだが健やかに成長できるような生活を送る権利をもっています。 第31条「休み、遊ぶ権利」子どもは休んだり遊んだり文化芸術活動に参加したりする権利をもっています。 第34条「性的搾取からの保護」国は子どもが児童ポルノや児童買春などに利用されたり、性的な虐待を受けたりすることがないように守らなければなりません。 第36条「あらゆる搾取からの保護」国はどんなかたちでも子どもの幸せをうばって利益を得るようなことから子どもを守らなければなりません。 第39条「被害にあった子どもの回復と社会復帰」虐待、人間的でない扱い、戦争などの被害にあった子どもは、心やからだの傷をなおし、社会にもどれるように支援を受けることができます。 公益財団法人 日本ユニセフ協会 子どもの権利条約 https://www.unicef.or.jp/crc/(20250131 参照) 誰にでも人権があり子どもにも権利があります。でもその権利は守られてきたでしょうか。 もし自分を養育する立場にある大人が権利を守らなかったら子どもはどうなるのでしょう。権利を守らない大人を正すことは無力な子どもにはできません。絶望のなか子どもが唯一できることは「自分が悪い」と思うことです。 「自分が悪いから殴られるんだ、自分に価値がないから大切にされないんだ」。そう思うことで自分がいい子になれば現状を変えることができるのだと、わずかでもコントロール感がもてるのです。「自分が悪い」と思うことが一縷の望みになるのです。 子どもの頃にもった自分自身に対する否定的な信念は、大人になってもその人の人生に影響します。ちょっとしたことでも「自分が悪い」「自分には価値がない」との思いが湧き出てきてしまい、人間関係がうまくいかなくなったり、能力を十分に発揮できなくなったりすることがあります。 そのような時には自分の権利は十分に守られてきたのか、子どもの自分に問いかけてみましょう。周囲の大人が子どもの権利をないがしろにしていたとしたら、悪いのは子どもでしょうか大人でしょうか。 もしも電車であなたの隣に座った幼い子が、「殴られたのは自分が悪い子だから」「大切にされないのは自分に価値がないから」と言っていたら、あなたは何と言ってあげますか。
- 大学等高等教育における発達障害
発達障害 大学にはどのくらいいるの? どんな支援があるの? 2024年4月1日から民間事業者における障害をもった方に対する合理的配慮の提供が義務化されました。 大学などの高等教育でも国立だけではなく私立学校も合理的配慮の提供が義務となり、より一層障害をもった方に対する学修支援に関心が集まっているようです。 日本学生支援機構(JASSO)の調査よると、大学等(大学、短期大学、高等専門学校)に通う障害をもつ学生数は増加傾向にあり、2023年では58,141人で全体の学生数の1.79%となります。そのうち発達障害をもつ学生は11,706人で、障害をもつ学生の20.1%となっています。 ※JASSOが調査した大学等の数は1,168校、学生数3,247,212人。回答率100%。 発達障害には、限局性学習症(SLD)、注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、ADHD+ASDなど発達障害の重複などがあります。 DSMなどの診断基準でいうと神経発達症群としてチックなどもあるのですが、JASSOの調査では上記4つで分類しています。 では実際に支援を受けている発達障害をもつ学生はどのくらいいるのでしょう。 大学等に通う発達障害11,706人のうち支援を受けている学生は8,227人で、おおよそ70%の方が学校での支援につながっているようです。 その内訳は下記のようになっています。 大学等に通う発達障害をもつ学生数(人) そのうち支援を受けている学生数(人) 限局性学習症(SLD) 309 228 注意欠如多動症(ADHD) 4,090 2,785 自閉スペクトラム症(ASD) 4,929 3,388 発達障害の重複 2,378 1,826 計 11,706 8,227 次にどのような支援がありどのくらいの学校が支援をおこなっているのかを表にしました。 支援内容 実施校(1,168校中) 配慮依頼文書の配布 534 授業内容の代替、提出期限延長等 400 出席に関する配慮 389 講義に関する配慮 359 教室内座席配慮 313 学習指導 280 注意事項等文書伝達 273 履修支援 237 試験時間延長・別室受験 223 解答方法配慮 148 (複数回答あり) 他にもいろいろな配慮がありますが、実施校数の多いものを抜粋して載せています。 大学等に現在通われている方や、今後進学を考えている方など以上参考にしてもらえると幸いです。 ただ、今回調査結果をみて感じたことは、発達障害をもつ人の割合が少ないなということです。大学等に通う学生数が3,247,212人のうち発達障害をもつ学生は11,706人となっています。割合でいうと0.36%です。 文科省が発表している調査では小中学校の児童生徒のうち8.8%に特別な教育的支援が必要だとの結果がでていることから、小中学生の8.8%に「発達障害の可能性」があるともいわれています。(そのように言い切れるかは疑問が残りますが) それでも、小中学校で発達障害の可能性がある人数と大学に在籍している人数の割合、8.8%と0.36%の違いは何なのか考える必要がありそうです。 【参考文献】 日本学生支援機構「令和 5 年度(2023 年度)大学、短期大学及び高等専門学校における 障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」 https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/2023.html(20241125参照) 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する 調査結果について」 https://www.mext.go.jp/content/20230524-mext-tokubetu01-000026255_01.pdf(20241125参照) 日本精神神経学会「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き」医学書院
- オレンジリボン・児童虐待防止推進キャンペーン
毎年11月は「オレンジリボン・児童虐待防止推進キャンペーン」期間です。 虐待の話をするときは少し身構えてしまいます。「虐待」という言葉がとても強烈にかんじられるからかもしれません。最近では「虐待」ではなく「マルトリートメント(不適切な関わり)」という言い方もあるようです。 虐待について知るのが怖い、世の中に虐待があるという現実から目をそらしたくなる、どこか遠い出来事にしたくなる、そんな気持ちもあります。 しかし、現実には児童相談所における児童虐待相談対応の件数は20万件を超え、虐待により命を落とす子どもも年間70件以上になっています。 虐待により命を落とさずにすんだとしても心にとても大きな傷を残します。それは大人になっても心理面、認知面、身体面などに影響をします。 不安な気持ちや自分には価値がないと感じたり、心の傷を感じないようにアルコールの力をかりて体を壊したりと様々な影響がでるといわれています。 児童虐待には、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトがあります。単独で発生するだけではなくいくつも重なっておこる場合もあります。児童相談所での相談の割合では心理的虐待が多いようです。また、虐待は世代間で連鎖するともいわれており、加害をおこなっている親も子どもの頃に被害にあっていることもあります。 虐待を防ぐためには親の責任を問うだけではなく、社会全体で考えていかなければなりません。 こども家庭庁のとりくみの「オレンジリボン・児童虐待防止推進キャンペーン」は11月1日から30日までで、子どもの虐待防止のための広報、啓発活動が行われるようです。 これを機会に虐待について目をそらさずに考えていけたらいいのではないでしょうか。 オレンジリボン運動 - 子ども虐待防止 児童虐待防止推進特設サイト
- マジョリティ側の特権について考える
マジョリティ側の特権の可視化について上智大学の山口真紀子先生のお話をEMDR学会で聴く機会がありました。 まずマジョリティとは多数派を意味しますが、必ずしも数の違いだけではなくパワーや特権があり優位な情況にいる人を指すこともあります。一方のマイノリティは少数派で数が少ない人たちや、もともと持っているパワーや特権が少ない人たちのことをいいます。 発達障害について考えますと、マジョリティである定型発達の人たちが特権をもっていることになります。 定型発達の人たちは自分たちの過ごしやすい明るさや温度、聞こえやすい音に調整された環境で過ごせるという特権があります。また、社会の構造が定型発達のコミュニケーションの方法や社会性などがもとになっている、という特権があるといえます。学校のしくみも定型発達向けに作られておりそこに馴染める特権、先生やリーダー的な人と同じような感覚をもともともっているという特権があるかもしれません。 特権をもっていない発達障害の人たちは、その分頑張らないとなりません。感覚の違いによる不快感を我慢したり、コミュニケーションの方法が違う人たちに合わせて本来の自分を隠したり、わかりにくい社会の仕組みをどうにか理解したりしなければなりません。 最近では合理的配慮といってその違いに対する配慮も多くなってきました。 しかし、まだまだ行き届かないところやそのような配慮を逆に差別だと言われたりすることもあります。 山口先生はこのようなマイノリティの人たちに対しどう支援するかよりも、まずはマジョリティの人たちが自分たちのもっている特権に気づくことが大切だといっています。 マジョリティ寄りの社会構造になっている世の中で自分たちが特権をもっていることに気づき、同じ世の中で苦しい経験をしている人たちがいることに目を向ける、そうすることで差別のある社会構造を変えていけると考えられています。 【参考文献】 上智大学「立場の心理学からマジョリティ特権と構造的な差別を可視化する」出口真紀子 https://www.sophia.ac.jp/jpn/article/feature/the-knot/the-knot-0011/(20241004参照) 日本EMDR学会第19回学術大会特別講演「特権(Privilege)について」出口真紀子
- 闘争逃走反応
「闘争逃走反応」とは、生理学者のCanonが提唱した、自律神経の交感神経が危険を感じた時に「闘うか、逃げるか」を迫るという神経反応のことです。 「闘うか、逃げるか」するため、すぐ動けるように身体に反応が起こります。筋肉に力を供給するため心拍数や呼吸が速くなり、血圧が高くなります。すぐに危険に対応できるよう筋肉が緊張状態になります。 危ない!と感じた時に体に力が入り心臓がどきどきすることや口が乾くことがありますが、これは「闘争逃走反応」が起きているといえます。この反応は一時的なもので通常危険が去るとこの反応は自然に収まります 。 しかし、トラウマを負った人ではこの反応が収まるまで時間がかかることや、少しのストレス刺激にも過剰に反応する場合があります。少しの物音にも驚いて落ち着かなかったり、安心感がもてずリラックスができなかったりする状態が続いてしまうのです。緊張状態が続くため健康の問題や睡眠の問題、記憶や注意力への影響などを抱えやすくなります。 「闘争逃走反応」は生き延びるための自動的な反応です。 トラウマを負った人が理屈では今は安全とわかっていても、危険に対する反応、生き延びるための反応は緊張状態のまま、簡単にはもとには戻らないものなのです。 【参考文献】 Cannon, W.:Bodily changes in pain, hunger, fear, and rage. Appleton, New York, 1929. ベッセル・ヴァン・デア・コーク, 訳者 柴田浩之, 解説者 杉山登志郎(2016) 「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」紀伊国屋書店. 闘争・逃走反応 - Wikipedia(20240413参照)
- LD学習障害(限局性学習症:Specific Learning Disorder: SLD)
限局性学習症(学習障害、LD)は、医学的な表現をするとLearning Disorder、教育的立場ではLearning Disabilityと2つの考え方があります。 〇医学的には、神経発達症(発達障害)のひとつに分類されています。 読みの問題では、不正確で速度が遅いことや、発音や意味理解、読字の困難さなどがあり、 書くことの問題では、誤字脱字、文法の間違い、段落をまとめられない、などがあります。 算数技能の問題では、数字の概念や計算の習得、数学的推論が難しいことなどがみられます。 これらの問題のうち少なくとも1つが存在し6か月以上続いている状態のことを限局性学習症といいます。 〇教育的立場の学習症は、全般的な知的発達に遅れはないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」といった学習に必要な能力のうち、一つないしいくつかがうまく習得できず、学習するにあたり困難がある状態のことをいいます。 LD学習障害(限局性学習症:Specific Learning Disorder: SLD) 〇発達性ディスレクシア(発達性読み書き障害) 限局性学習症の一つに分類 されており、聴覚や視覚などの感覚障害がなく知的発達も遅れがないが、文字などがなかなか習得できない状態 をいいます。 ひらがなやカタカナ、漢字をなかなか覚えられないことや、音読の速度が遅かったり、読み飛ばしが多かったりします。 学習障害(限局性学習症)は努力しても文字や数を覚えるのが困難なため、特に学習面での成功体験が得られにくくなります。周囲からは努力不足と誤解されることもあり、自信を失い消極的になることもあります。 学習障害がある場合、学校や職場で合理的配慮として苦手なところを補う代替措置を考えてもらうとよいでしょう。書く代わりにパソコンやタブレットの使用、読むことが苦手なら読み上げてくれるアプリを使う、試験の時間延長などの配慮が考えられます。 【参考文献】 厚生労働省 e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-004.html 文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/mext_00808.html(20240404) 発達性ディスレクシア研究会「ディスレクシアを理解するために」
- ADHD混合型と不注意優勢型
注意欠如多動症(Attention -Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD) ADHDとは、不注意や多動性、衝動性がみられる発達障害のひとつです。 不注意の面では、忘れ物や失くしものが多い、約束の時間を忘れる、提出物が期限までに間に合わないなどが問題として表れます。 多動や衝動的な面では、順番を待てない、しゃべりすぎて失言してしまう、他の人の邪魔をしてしまうことなどがあります。 ○混合型と不注意優勢型 ADHDには不注意と多動-衝動性が共にみられる混合型と、不注意がみられるが多動-衝動性の症状は診断基準をみたさない不注意優勢型があります。 ○混合型と不注意優勢型の友人関係 混合型は一般的に社交性があり友達を作ることは問題なくできます。しかし、不注意や衝動性により交友関係を維持することが難しくなってしまう場合があります。 一方、不注意優勢型は友情関係を始めることが難しいため、いじめや仲間外れになるリスクが高くなるといわれています。 ○混合型と不注意優勢型の診断時期 混合型は子どもの頃から落ち着きのなさが目立つことや、しばしば怪我が多かったりするため周囲から気にかけられやすいところがあります。そのため、ADHDかなと周囲が気づき早いうちから診断につながることもあります。 一方、不注意優勢型は、小さいうちは不注意なところを周囲がカバーしてくれることが多いため、ADHDの症状を見逃されやすいといわれています。スケジュール管理や計画を自分で立てなければならない状況になると問題が表面化し診断につながっていくようです。 【参考文献】 American Psychiatric Association (2000) Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition. 髙橋三郎・大野裕(監訳 2014)DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き, 医学書院. メアリー・V・ソラント, 訳者 中島美鈴, 佐藤美奈子「成人ADHDの認知行動療法-実行機能障害の治療のために-」(2015)聖和書店.
- カモフラージュと発達障害
発達障害をもっている人が、いわゆる“定型発達”が多数派の社会に受け入れられるために、自分の特徴を隠し対処することを“カモフラージュする”と表現することがあります。 カモフラージュは何のために行われるのでしょうか。 発達障害をもった人が自分は人と違うと感じた時に、普通に見えるため、自分に注目されないようにするため、嫌な目にあわないため、差別されないよう自分を守るためにカモフラージュするのです。 また、他の人との関係を上手に保つために、学校で友人を作り、就職活動を成功させ、仕事を長く続けるためにカモフラージュしています。 カモフラージュには良い面もありますが、あまり良くない面もあります。 カモフラージュするためには、常に他者の反応と自分の言動を意識しなければならずとても疲れます。うまくカモフラージュができているか不安になり大きなストレスがかかることもあります。 そして、カモフラージュすることで自分自身にうそをついていると感じ、アイデンティティを失うことや、自尊心に良くない影響がでることが心配されます。 自分のためになる上手なカモフラージュだといいのですが、必要以上に自分を変えてしまうことがないように、なんか無理しているなと思ったら少し立ち止まってみてください。 周囲の人は発達障害の人がもしかしたらカモフラージュしているのかもと想像してみてください。 【参考文献】 Laura Hull, K V Petrides, Carrie Allison, Paula Smith, Simon Baron-Cohen, Meng-Chuan Lai, William Mandy .(2017)"Putting on my best normal": Social Camouflaging in Adults with Autism Spectrum Conditions. Journal of Autism and Developmental Disorders. Aug;47(8):2519-2534.カモフラージュと発達障害
- トラウマインフォームドケア
なんかよくわからないけど急に怖くなったり、不安になったり、悲しくなったり、怒ったり、うまく説明できない症状に悩まされている方は、もしかしたらトラウマがあるのかもしれません。 表にでてこないように心の奥にしまわれている記憶が、何らかのきっかけであらわれることがあります。 トラウマインフォームドケアは “もしかしたらトラウマを持っているかもしれない” と意識してみる優しいケアです。 トラウマかどうかわからないけど、もしかしたら辛い体験が心に傷となり残っているのかもと考えてみます。 そうすると、自分自身の感情や症状がどこからきているのかに気がつくかもしれません。こんなに悲しくなるのは昔の経験が思い出されるからなんだ、急に怖くなるのは以前そんな体験をしたからなんだ、とわかってきます。 自分自身のことがわかることで不安は少し軽減されます。または、自分の状態のことを人に話せるようになるかもしれません。理解すること、理解してもらうことがトラウマから回復する一歩になります。 トラウマインフォームドケアは治療者や支援者だけがおこなうものではなく、すべての人がおこなえるものです。相手に対し、または自分に対し、症状や行動だけを見るのではなく、もしかしたらその行動の陰には心の傷があるのかもと考えて接していくのがトラウマインフォームドケアです。 ※先日参加した『第4回学校安全推進センター・シンポジウム トラウマインフォームドケア~トラウマインフォームドケアの実践活動について~』の内容を参考にしています。
- 叱責よりも作戦会議
子どもの頃発達障害の特性ゆえにたくさん怒られた学生さんに、その時どうしてほしかったかお聴きしたところ「怒るんじゃなくどうすればいいか一緒に作戦会議をして欲しかった」と返事が返ってきました。 そうだよねーとすごく納得。 どうすればいいかわからず困っている時にただ怒られたらちょっと辛いですよね。 「怒るんじゃなくてどうすればいいかちゃんと教えています」という声も聞こえてきそうです。 それもいいのですがやもすると一方的な指示になってしまうこともありますね。 相手は子どもだし教えてあげなきゃ、ご自身の大切なお子さんならなおさらどうにかしてあげたい、どうにかしなきゃっていう気持ちになるかもしれません。 そこをぐっと抑えて一歩子どもの目線まで下りてみる。そして一緒にどうすればいいか考えてみます。 作戦会議をしても始めは本人から建設的な話は出ないと思います。「わかんない」「だって」とか「今度からはちゃんとやるから」とか言われるかもしれません。 そんな時はこんな質問をしてみてください。 ① 問題となっていることについてうまくいった時のことを聞く(またはうまくいった時のことを「あの時はこうだったよね」とフィードバックしてあげる) ② もし魔法みたいに問題が解決したらどうなるか聞く この質問をすると今まで気がつかなかった本人の本音がみえてきたり、解決策が浮かんできたりします。 本人にとって一番いい解決方法は本人が知っています。 作戦会議でなかなか問題が解決しないこともあります。親子ゆえにうまく話し合えないこと、忙しくてゆっくり話している時間がないこともあります。 そんな時は専門家に相談してみてください。 今回紹介した①②は解決志向アプローチ(ブリーフセラピー)という心理技法です。解決志向アプローチが得意なカウンセラーさんを探してみるのもいいかもしれません。 【参考文献】 E.V.ブリス&G.エドモンズ、ビル・オコンネル序文、桐田弘江・石川元訳「アスペルガー症候群への解決志向アプローチ ―利用者の自己決定を援助する」2010,誠信書房.
- ADHD大学生の課題提出
神経発達症(特にADHD)の大学生からの相談で多いのが「課題の提出について」です。 提出ができない理由の一つに、履修科目が多く課題がいろいろ出ていると「やったかまだかわからなくなる」ようです。 わからなくなると、「やった」の認知に傾く人と「まだ」の認知に傾く人といるようです。 「やった」の認知では「たぶんやった、やったことにしよう、大丈夫」となります。そしてなんとなく忘れてしまうのですが、後で発覚し取返しがつかない状況になってしまっていたり、周囲から怒られたりするので自己効力感や自尊心が低下してしまいます。 「まだ」の認知では「やったかな、まだのような気がする、どうしよう」となります。不安感が高まるため何度も確認を行います。落ち着かず周囲の人に何度も確認をするため疎まれることがあります。不安感や強迫観念が高まってしまいます。 課題提出を忘れないよう「すぐやる」ことで対処している人もいます。この場合提出もでき不安感もなくなるのでよいのですが、課題の量が多くなるとパンクしてしまいます。 根本にあるのが実行機能の障害といわれるものです。情報を整理し順序だてて行うことが苦手というか、かなりの努力を要するのです。周囲の人に理解してもらいたいのが、スマホのアプリをつかって管理するとか、すぐメモをとるとか、努力して頑張っても追いつかないことがあるのです。もちろん上手に対処しているADHDの方も多いです。でも実際に実行機能がどうしてもうまく働かない人がいます。 実行機能の障害があるからといって能力が低いわけではありません。誰かが情報を整理し段取りを組んでくれれば成績がぐっと上がることもあります。 努力し自分の苦手を克服するのが美徳とされるところもあります。ただ、自尊心が低下することや不安で体調を崩すのであれば、もっと早い段階で苦手なことを誰かに“外部委託”してもいいのではないでしょうか。 家族や友人、パートナー、支援者など外部委託先を見つけ、科目ごとに課題の難易度や分量、提出の頻度、いつまでにどのような形で提出するのか整理してもらいます。外部委託先は課題提出までの段取りをシステム化し、提出の有無をチェック、視覚化していきます。 外部委託先の方はちょっと負担が大きいかもしれません。大学の相談室や支援室、就労移行事業所などを利用してみるといいかもしれません。 当相談室でも大学生の方のご相談をお受けしております。困ったことになり自分を責めてしまう前に早めにご相談ください。
- 神経発達症(発達障害)の認知行動のメカニズム
神経細胞のニューロンの活動性が一様になるとASD(自閉スペクトラム症)に類似する認知行動の特性が示されたという研究があります。 早稲田大学と国立精神・神経医療研究センターの研究で、神経回路モデルを搭載したロボットの学習実験をしたところ、ニューロン群の活動性が一様なモデルのロボットは、認知の柔軟性の低下や汎化能力の低下、運動のぎこちなさ、感覚過敏などの認知特性が見られたそうです。 実験ではニューロン群の活動性が多様なモデルと一様なモデルのロボットを用意し、ボール遊びを学習させた後、実験者とボールパス交換をしたそうです。その結果、活動性が多様なモデルのロボットは環境変化に応じた柔軟な行動の切り替えをし、一様なモデルのロボットは切り替えに失敗したとのことです。(※1) ニューロン群の活動性が一様なため感覚刺激に対する反応が過剰になり神経回路の情報表現能力が過度に上昇し、そのためにASDのような特性が現れたのではということのようです。 何となくロボットとASDは違うよなと心の片隅で思いながら、ただASDの人の疲れやすさや脳疲労は、ニューロンの活動性が一様なため感覚刺激に対する反応が過剰になるからなのかと腑に落ちました。 早稲田大学 国立精神・神経医療研究センター(2020)「神経発達障害の認知行動異常のメカニズムを解明」20200812press.pdf ( ncnp.go.jp )(2023.10.23参照) ※1Hayato Idei,Shingo Murata,Yuichi Yamashita,Tstuya Ogata(2020): A Robot Model of Neurodevelopmental Disorder ( frontiersin.org )(2023.10.23参照)












