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「失礼な人」に見えてしまう理由  ― 会話には「所有権」がある ― 

会話をする人たち

 


会話には「所有権」がある


「職場で普通に話しているつもりなのに、なぜか失礼な人だと思われてしまう」

「雑談がうまくできない」

 

支援やカウンセリングの現場で、こうした相談を受けることは少なくありません。

ご本人には悪気がまったくなく、「何がいけなかったのかわからない」と戸惑っていることも多いです。

 

そんなとき、説明のヒントとして役立つのが

「行為と発言の所有権」 という考え方です。


 

会話には「誰のものか」がある

 

私たちは会話の中で、無意識のうちに

「この話題は誰のものか」を行き来しています。

 

所有には大きく分けて、次の2つがあります。

 

知識による所有

 専門知識、情報、判断、方法

 

経験による所有

 感覚、気持ち、体験、つらさ、主観

 

この所有を取り違えると、

内容が正しくても「失礼」「わかっていない」と受け取られてしまうことがあります。


 

〇医師と患者の例

 

たとえば、医師と患者の関係。

 

患者が所有しているもの

 ・痛みの強さ

 ・つらさの感じ方

 

医師が所有しているもの

 ・症状の評価

 ・治療の選択肢

 

ここで所有が逆転すると、違和感が生まれます。

 

患者が

 「それ、注射で治りますよね」と治療法を断定する

 

医師が

 「そんなに痛くないでしょ」と痛みを評価する

 

どちらも、相手の所有に踏み込んで話している状態です。

正論であっても、相手は「軽く扱われた」「わかってもらえない」と感じやすくなります。


 

 

〇支援の現場での、よくある一言

 

ある方が、こんなふうに話してくれました。

 

「話しているとき、相手のためを思って言っているのに

あとから『余計な一言だったかもしれない』と気づくんです」

 

そこで

「その話題は、今どちらが“持っている話”だったと思いますか?」

と聞いてみると、

 

「あ…相手の気持ちの話なのに、解決策を出してました」

 

と、はっとされることがあります。

 

失礼に見えてしまう原因は、

共感のなさではなく、所有の取り違えだった、というケースはとても多いです。


 雑談でも、このズレはよく起こります。


 

雑談で起こりやすいズレ


相手の所有なのに、話してしまう例

  • 相手が大変だった話をしているとき、すぐに解決策を言う

  • 相手の話を整理してあげようとして、結論を先に言う

  • 感情の話に、事実や正しさで返す


自分の所有なのに、話さない例

  • 自分の意見を求められているのに、答えが見つからず黙る

  • 「どう思う?」と聞かれても、正解を探してしまい話せない

  • 共感はしているが、言葉にするタイミングがわからない


どちらも、能力や人柄の問題ではありません。会話の「役割分担」が見えにくいだけです。


 

雑談が少し楽になる考え方


話す前や聞いている途中で、こんな問いを心の中で使ってみてください。


「今、この話は誰のもの?」


  • 相手のもの →聞く、うなずく、くり返す

     「そうだったんですね」「それは大変でしたね」


  • 自分のもの →短くてもいいので、言葉にする

     「私はこう思いました」「少し似た経験があります」


雑談は「うまく話すこと」より、持ち物を勝手に入れ替えないことが大切な場面も多いのです。


 

最後に

雑談が苦手なのは、性格が悪いからでも、空気が読めないからでもありません。

見えにくいルールを、まだ知らなかっただけ。

ルールが言葉になれば、会話は「感覚」ではなく「工夫」で対応できます。

 



【参考文献】

浦野茂(2018)「第5章場面にふさわしいやりとりのルールってどんなもの?」編者 綾屋紗月「ソーシャルマジョリティ研究 コミュニケーション学の共同創造」(pp.170-211)金子書房 

 

 
 
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