ギフテッドの困り感と発達特性の関係

能力の高さだけでは見えない、生きづらさについて
「勉強ができる」「頭の回転が速い」「人よりも理解力が高い」。
ギフテッドという言葉から、このような姿をイメージする方も多いのではないでしょうか。
しかし、知的な能力が高いことと、学校生活や人間関係をスムーズに送れることは、必ずしも同じではありません。
物事を深く考えられる一方で、周囲との会話がかみ合わなかったり、強い感受性ゆえに傷つきやすかったり。自分の考えや疑問を伝えても理解してもらえず、孤独を感じることもあります。
ギフテッドの人が抱える困り感は、能力の高さだけでは説明できません。本人の認知や感情の特徴と、学校や家庭などの環境との間に生じるギャップにも目を向ける必要があります。
今回は、ギフテッドの困り感と発達特性の関係について考えてみたいと思います。
1.理解できることと、実際にできることは違う
ギフテッドの人の中には、物事を理解するスピードが速かったり、複雑なことを深く考えたりする一方で、文字を書く、作業を順番に進める、時間内に課題を終えるといったことに難しさを感じる人もいます。
頭の中では答えがわかっているのに、書くことが追いつかない。説明が簡単すぎると退屈してしまう。自分なりに考えたいのに、決められた手順に沿って進めることを求められる。
こうした状況が続くと、本人はもどかしさを感じたり、周囲から「やる気がない」「努力が足りない」と誤解されたりすることがあります。
また、能力を十分に発揮できる環境がないために、本来持っている力が学業成績に表れないこともあります。
大切なのは、できていないことだけを見るのではなく、何ができていて、どこでつまずいているのかを具体的に理解することです。
2.周囲との違いが、孤独や傷つきにつながることも
興味のあることを深く掘り下げたい。物事の矛盾が気になる。大人が当然としていることにも疑問を持つ。
こうした特徴は、知的好奇心や独自の視点として、その人の強みになることがあります。
一方で、学校などの集団生活では、質問が多いことを面倒がられたり、自分の考えを伝えた結果、「理屈っぽい」「扱いにくい」と受け取られたりすることもあります。
同年代の子どもたちと関心が合わず、会話に入りにくいと感じる人もいるでしょう。
そのような経験が重なると、「自分は周りと違う」「自分の考えを話しても理解してもらえない」と感じ、自分を出すことを控えるようになる場合があります。
周囲に合わせようとするあまり、本来の興味や感情を抑えてしまうこともあります。
ここで考えたいのは、本人にコミュニケーション能力がないから孤立する、と単純に捉えないことです。本人の特徴だけでなく、周囲との相性や環境、互いの違いを受け止められる関係があるかどうかも、大きく関係しています。
3.感受性の強さや完璧主義が、心の負担になることも
ギフテッドの人の中には、物事を深く考えたり、他者の感情や周囲の変化に敏感に反応したりする人がいます。
また、自分が納得できる水準を高く設定し、失敗を強く恐れることもあります。
「できるはずなのに、うまくできない」「間違えるくらいなら、やらないほうがいい」「周りの期待に応えなければならない」
こうした思いが強くなると、挑戦することが怖くなったり、失敗を避けるために行動できなくなったりすることがあります。
周囲からは能力が高いと思われているため、本人の苦しさに気づいてもらえないこともあります。
さらに、周りの期待に応えようと無理を重ねたり、集団の中で浮かないように自分を抑え続けたりすることで、疲れ果ててしまう場合もあります。
能力が高いことと、心に余裕があることは別です。
外から見える成果だけで判断せず、本人がどれほどのエネルギーを使って日々を過ごしているのかにも目を向けることが大切です。
4.ギフテッドと発達特性は、どのように関係するのか
ギフテッドと発達障害は、同じものではありません。
ただし、ギフテッドの人がADHDやASDなどの発達特性を併せ持つこともあります。このように、優れた能力と何らかの困難を併せ持つ状態は、一般に「2E(Twice-Exceptional)」と呼ばれます。
例えば、次のようなことが考えられます。
ADHDの特性を併せ持つ場合:興味のあることには強く集中する一方、関心の薄い課題への取り組みや、時間・持ち物の管理に難しさを感じることがある。
ASDの特性を併せ持つ場合:特定の分野に深い関心を持つ一方、暗黙のルールや曖昧なコミュニケーションに戸惑ったり、感覚刺激に負担を感じたりすることがある。
学習面に困難がある場合:内容を理解する力は高くても、読み書きなど特定の技能に難しさがあり、能力を十分に発揮できないことがある。
もちろん、これらの特徴があるからといって、必ずギフテッドや発達障害に該当するわけではありません。個々の特徴や困りごとを丁寧に見ていく必要があります。
また、能力の高さによって困難が目立ちにくくなることもあれば、発達特性による困難が強く表れることで、本人の得意なことや可能性が見過ごされることもあります。
周囲から「これだけできるのだから、ほかのこともできるはず」と期待され、困難を理解してもらえないケースもあります。
得意なことがあるからといって、苦手なことまで努力だけで解決できるわけではありません。
その人が持つ力と、支援を必要とする部分の両方を理解することが重要です。
5.周囲とのギャップが、二次的な心の傷につながることも
自分の特性を理解してもらえず、繰り返し注意されたり、否定されたり、周囲に合わせることを求められたりする。
こうした経験が長く続くと、自信を失ったり、自分を責めるようになったりすることがあります。
「自分が悪いから、うまくいかない」「人に合わせられない自分がいけない」「失敗したら、認めてもらえない」
そのような思いを抱え、失敗を極端に恐れたり、人との関わりを避けたりするようになることもあります。
また、いじめや強い否定、安心できない人間関係などによって、心に深い傷を負う場合もあります。
もちろん、ギフテッドや発達特性がある人が必ず心の問題を抱えるわけではありません。困難の現れ方は、本人の特徴だけでなく、周囲の理解や支援、これまでの経験によっても異なります。
だからこそ、今起きている問題だけを見るのではなく、これまでどのような環境で過ごし、どのような経験を重ねてきたのかを理解することが大切です。
6.必要なのは、特性を変えることだけではなく、理解と環境の調整
困りごとがあると、本人の努力や行動を変えることに目が向きがちです。
しかし、本人が努力を重ねても解決しない問題もあります。
学習の進め方を工夫する、得意な分野を伸ばす機会をつくる、感覚的な負担を減らす、安心して自分の考えを話せる相手を見つける。
このように、本人の特徴に合わせて環境を調整することで、困りごとが軽くなる場合があります。
同時に、これまでの経験から身についた「自分はダメだ」「人に頼ってはいけない」といった思いが、今の生活に影響していないかを振り返ることも大切です。
必要なのは、本人を一方的に環境に適応させることだけではありません。本人の特徴を理解し、その人が力を発揮しやすい環境や関係を整えていくことです。
一人ひとりの背景に目を向けるために
ギフテッドという言葉だけで、その人の性格や困りごとをすべて説明することはできません。発達特性の有無だけでも、その人が抱えている生きづらさを十分に理解できるとは限りません。
同じような特徴があっても、育ってきた環境や周囲との関係、これまでの経験によって、困りごとの現れ方は異なります。
ハピネス発達心理相談室では、目の前の困りごとだけでなく、その方がこれまでどのような経験をしてきたのか、何に傷つき、どのような思いを抱えてきたのかにも目を向けたいと考えています。
「何が悪いのか」だけではなく、「その人に何が起きてきたのか」。
その視点から、ご自身の特徴を理解し、これまでの経験によって生じた心の負担を整理しながら、日々の生活を少しずつ過ごしやすくしていくことを大切にしています。
周囲との違いに悩んできた方が、自分を否定するのではなく、自分自身を理解するきっかけになればと思います。
ハピネス発達心理相談室🌸
【参考文献】
竹内 愛 (2025)「日本におけるギフテッド教育の可能性に関する基礎研究 ―諸外国の事例を踏まえた課題と展望―」『共愛学園前橋国際大学論集』第25号, pp.1-17
片桐 正敏 (2023)「ギフテッドと発達障害」『LD研究』第32巻 第4号, pp.236-243
小倉 正義 (2023)「ギフテッドの支援」『LD研究』第32巻 第4号, pp.259-265
高山 恵子「発達障害者支援:ニューロダイバーシティの時代へ」




